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クロスターゲティングで潜在層にリーチ!キュレルのデジタルマーケティング戦略

花王株式会社

花王株式会社
コンシュマープロダクツ事業部門 キュレル事業部(インタビュー当時)
DX戦略推進センター DXデザイン部 戦略企画室(現職)
廣澤 祐氏

花王株式会社(以下、花王)が展開するキュレルは、「乾燥性敏感肌」に悩む消費者を対象にしたスキンケアブランドです。キュレルではブランドの立ち上げ時から、マス広告や店頭での商品告知だけでなく、ブランドサイトを通じて乾燥性敏感肌対策の啓蒙に努めてきました。

 

現在、キュレルが新たな顧客チャネルとして活用しているのがLINE公式アカウントLINE広告です。キュレルのデジタルマーケティング戦略と、LINE公式アカウントで得たデータをLINE広告の配信に活用できるクロスターゲティングを活用した取り組みについて、同社 コンシュマープロダクツ事業部門 キュレル事業部(インタビュー当時)の廣澤 祐氏(以下、廣澤氏)に話を聞きました。

目的
  • 新商品のサンプルをターゲットとなるユーザーに効率的に届けたい
  • これまでリーチできていなかった潜在層にアプローチしたい
施策
  • クロスターゲティングを活用して、「LINE公式アカウントの友だち」と「過去にLINE公式アカウントから配信したメッセージを開封・クリックした友だち」それぞれに類似したユーザーに対してLINE広告を配信
効果
  • リターゲティング広告に比べてCPCやサンプル応募獲得単価を半分に抑制し、サンプルの申し込み数も8倍以上に増加
  • クロスターゲティングの活用を通じて、これまでリーチできなかった潜在層がいることが明らかになり、さらなる施策検討が進んだ

消費者行動が変化する中で一層重視している「ZMOT」という概念

1950年代から台所用洗剤などの日用品を販売していた花王は、家事の中心を担っていた女性の手の肌荒れについて研究を重ね、肌の必須成分であるセラミドに着目し、乾燥性敏感肌の悩みにこたえるスキンケアブランド「キュレル」が1999年に誕生しました。

 

しかし、当時は「肌荒れ」に対する課題認識や理解が薄く、テレビCMや雑誌広告などのマス広告を活用しながらも、商品の特徴を丁寧に説明し理解を促すには困難もありました。そこで、「乾燥性敏感肌」がどのようなものかをユーザーに理解してもらうため、インターネット黎明期である2000年代からブランドサイトを軸にしたコミュニケーション設計を行ってきました。

 

2011年にはGoogleが現代の消費者行動を「ZMOT(Zero Moment Of Truth)」(※1)という概念を提唱しましたが、「キュレルはZMOTが登場する以前より、ZMOTのような消費者行動を意識しており、メディアやコンタクトポイントが多様化した現在でも、この考え方を重視した戦略を立てている」と廣澤氏は説明します。

花王株式会社 コンシュマープロダクツ事業部門 キュレル事業部(インタビュー当時)
DX戦略推進センター DXデザイン部 戦略企画室(現職)
廣澤 祐氏

「Moment Of Truth」(※2)という概念は1980年代に登場しますが、2000年代に入るとA.Gラフリーが第一の真実の瞬間として「店頭で出会う瞬間」、第二の真実の瞬間として「商品を使用する瞬間」があると指摘し、2011年にはその前段階として「情報を探索する瞬間」があるとGoogleが指摘しています。

 

「キュレルは課題解決型の商品で、そのターゲットは肌荒れという症状を認知し、悩みを抱えているユーザーです。多くのお客さまはまず『悩みに対する解決策を調べる』ところからスタートしますから、SEO対策にもしっかりと力を入れてきました。さらに、SNSが登場した現在は、『口コミ』という第三のモーメントも発生しています。そこで、キュレルのマーケティング戦略は『検索→商品を知る→使う→口コミで他者に商品を勧める』という消費者行動のプロセスに則り、設計されています」

クロスターゲティングを活用し、肌の悩みを抱えるユーザーにキュレルを届けたい

肌荒れに悩む人々の間でキュレルの認知を拡大するために、花王はこれまでユーザーとの主なコミュニケーションツールとしてメルマガやSNSを活用してきました。メルマガは現在も70万人以上が登録していますが、SNSの普及によってメルマガ購読者数が減少傾向にあったといいます。その代わりとなるチャネルとして同社が2019年1月に導入したのがLINE公式アカウントでした。

 

現状、LINE公式アカウントの友だち数はメルマガの購読者数に及ばないものの、ブランドのファンとつながる新たなコミュニケーションチャネルとしての役割を担っているといいます。

 

「広告は大きな影響力を持つ企業発信の手法の一つですが、基本的に一方通行のコミュニケーションであり、広告を開始した後のチューニングなども難しい傾向があります。一方、SNSは投稿後にユーザーの反応を見ながらチューニングすることが比較的容易であり、かつ、必要があればユーザーと直接コミュニケーションをとることができるというのがメリットだと思います。

 

また、先にも述べたようにメディアが多様化する中で、消費者自身が利用しているツールも異なります。そのため、コンタクトポイントを増やすことで、これまでアプローチできていないユーザーにリーチできる可能性も高まります。コミュニケーションアプリ『LINE』は8,600万人(2020年9月末時点)というユーザー数を抱え、幅広いユーザー層にリーチできることも魅力の一つでした」

 

メルマガやLINE公式アカウントからの発信では、肌荒れに対する恐怖訴求でユーザーを煽るようなコミュニケーションではなく、「荒れがちな肌も、しっかり潤う」といった肌に関する悩みや商品便益を的確に伝える表現を大切にしています。

ユーザーへ配信するメッセージは、肌の悩みに寄り添いながら商品便益を訴求

LINE公式アカウントを活用して各種キャンペーンや新商品などの情報発信を行いながら、2020年8月にはLINE広告とクロスターゲティングを活用し、新商品「モイストリペア アイクリーム」のサンプルキャンペーンの告知を行いました。

 

キャンペーン期間は2020年8月11日から2週間。「LINE公式アカウントの友だち」と「過去にLINE公式アカウントから配信したメッセージを開封・クリックした友だち」のデータを基に、それぞれに類似するユーザーに対してLINE広告を配信し、サンプルの申し込みをコンバージョンとして目標を設定しました。

 

「デジタル広告ではターゲティングの精度を高めても見込み客の獲得ばかり行っていては、いずれ見込み客は減少し、リーチできるユーザーも限られてしまいます。すると、広告効果も鈍化していくことになります。クロスターゲティングを活用すれば、新商品のサンプルをターゲットとなるユーザーに効率的に届けながらも、これまでリーチできていなかった潜在層へのリーチも期待できるかもしれないと考えました」

CPCとサンプル応募獲得単価を半減しながら、潜在顧客に効果的なアプローチ

クロスターゲティングを活用して広告配信を行った結果、通常のリターゲティング配信と比較して、サンプルの申し込み数が大きく向上しました。特に「過去にLINE公式アカウントから配信したメッセージを開封・クリックした友だち」のデータを類似拡張した広告配信では、サンプルの申し込み数がリターゲティング配信と比較して8倍以上に伸長し、CPCとサンプル応募獲得単価が半分に抑制されるなど大きな成果が見られました。

 

廣澤氏は取り組みを振り返りつつ、LINEの法人向けサービスの活用について今後の展望を次のように語ります。

「これまで当社が行ってきたユーザーコミュニケーションで、まだリーチできていなかった潜在層がいることが、クロスターゲティングを活用した取り組みで明らかになりました。今後そうした層に向けてアプローチすることで、キュレルシリーズの認知向上や購入促進を期待できるかもしれません。

 

LINE公式アカウントについては、メルマガに代わるユーザーコミュニケーション基盤として、長期的な視野で運用を続けていきます。広告をむやみに配信して友だちを集めるのではなく、キュレルの魅力を知った方が、自然に友だち追加をするような取り組みを進めていきたいです。

 

また、今後はLINE公式アカウントの運用で得られたデータを社内で保有する顧客データとどう連携させるかを模索しつつ、クロスターゲティングのさらなる活用も検討していきます」

参考資料:
※1
Jim Lecinski「Winning The Zero Moment of Truth」(2011)
https://www.thinkwithgoogle.com/_qs/documents/673/2011-winning-zmot-ebook_research-studies.pdf
Jan Carlzon(1989)『Moments of Truth』Harper Business
ヤン カールソン(1990)『真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか』堤 猶二訳,ダイヤモンド社

※2
P&G「2006 Annual Report」 https://www.pg.com/en_US/downloads/investors/annual_reports/2006/pg2006annualreport.pdf

(公開:2021年2月/取材・文:岩崎史絵、撮影:小川孝行)

 

※本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです