「LINEでパーソナライズを追求」複数ブランドで取り組む、資生堂のLINE活用
資生堂ジャパン株式会社

左から資生堂ジャパン株式会社 EC事業推進部 仙田氏、川口氏、吉本氏、メディア統括部 飯田氏
複数ブランドを保有する企業がLINEの活用を考えるとき、「ブランドごとにアカウントを保有すべきか」は悩むポイントの一つかもしれません。コスト面や運用体制、ブランドイメージへの影響など検討すべき要素は多いものの、最近では、ブランドごとにLINE公式アカウントを開設する企業も出てきています。今回はそんな企業の一つである資生堂ジャパン株式会社(以下、資生堂)の取り組みについて担当者に話を伺いました。
- 目的
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- 自社Webサイトの会員を獲得したい
- 商品の認知獲得や興味喚起といったブランドリフトから、店頭やECでの購買まで一気通貫で促進するコミュニケーションを実現したい
- 施策
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- Webサイトとは別にブランドごとにLINE公式アカウントを運用
- それぞれ送客数、ブランドリフトとアカウントによって異なる評価指標で施策を展開
- 効果
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- ユーザーに対してパーソナライズされたコミュニケーションを実現
ブランドごとに異なる世界感でユーザーに接したい
資生堂は、自社Webサイト「ワタシプラス」の会員獲得を主目的として2012年に「資生堂 ワタシプラス」のLINE公式アカウントをオープン。さらに、CRMシステムの一環としてAPIを活用し、「One to Oneでお客さまとのリレーション強化」に乗り出しました。「一斉配信でボリュームを獲得して、個別のコミュニケーションで質のアプローチにつなげていく」という運用を行い、現在では友だち数が2,300万人を超え、国内有数の規模を誇るLINE公式アカウントに成長しています。
一方、2016年に「dプログラム」、2017年には「BENEFIQUE」「TSUBAKI」「イハダ」「WASO」といった各ブランド独自のLINE公式アカウントも開設し、顧客とのコミュニケーションを開始しています。

資生堂が運用するLINE公式アカウント(2017年12月時点)
資生堂が「ワタシプラス」とは別に、ブランドごとのLINE公式アカウントを運用している理由は二つあります。一つは、それぞれの目的の違い。EC売り上げへの貢献とブランドへの貢献が主目的の「ワタシプラス」とは異なり、ブランドアカウントは認知獲得や興味喚起といったブランドリフトから、店頭やECでの購買まで一気通貫で促進するコミュニケーションの実現を目的に据えています。
次に、ブランドごとに異なる世界感が挙げられます。「ワタシプラス」のLINE公式アカウントでの配信は、「ワタシプラス」の運用目的やトンマナに沿ったものにならざるを得ず、異なる世界感を持つブランドごとの“人格”は表現できません。ブランドを中心としたコミュニケーションを行う会社の方針もあり、それぞれの世界感でコミュニケーションを取るためブランド別にLINE公式アカウント開設しました。
LINE公式アカウントは“第二のブランドサイト
資生堂がユーザーと行っているコミュニケーションのパターンは大きく二つに分かれます。
一つが、ブランドサイトにあるようなコンテンツを配した “第二のブランドサイト”としての活用です。資生堂はLINEをFacebookやTwitterなどのSNSとは異なる位置づけと捉え、LINE公式アカウントをオンラインとオフラインをブリッジさせ、認知から購買まで幅広く貢献する存在と考えています。例えば、オンラインでブランド認知を高め、オフラインでマストバイキャンペーンでの購買につなげるといった例がわかりやすいかもしれません。ブランドアカウントをLINEの中にあるブランドサイトのように位置づけ、その上でひと通りブランドが体験できる(認知につながる動画も見られるし、店舗検索もできるなど)という機能をもたせようとしています。

「LINEはペイドとオウンドとアーンドの間のような位置づけというイメージで捉えており、LINE公式アカウントの中で認知から購入までをひと通り完結できるような設計もできると思っている」と語る飯田氏
もう一つは、「dプログラム」アカウントのbotを活用した「肌タイプCHECK」のような、インタラクティブなコミュニケーションです。シナリオに基づきユーザーとのやり取りを行っていくLINE ならではの活用法といえます。
アカウントの役割を生かした相乗効果も
「ワタシプラス」アカウントとブランドアカウントの両方のLINE公式アカウントを友だち登録しているユーザーに対しては、LINE公式アカウントの目的と特徴に応じた連携も考えています。
「ワタシプラス」アカウントにはECへの貢献に加え、ブランドへの貢献も大きな役割として期待されており、ブランドアカウントを大きく上回るリーチ力(友だち数)を生かしたブランド認知獲得施策を行っています。「ワタシプラス」でブランドを認知し、情報に興味を持ったユーザーとさらに“深い”コミュニケーションを行うためにブランドアカウントへと誘導する試みです。
ブランドアカウントは、主にプロモーション動画などのコンテンツを配信しながら、ブランド理解の促進や興味喚起をといった役割を担い、最後の購入やリピートといったところを再度「ワタシプラス」に託すーー。このような連携ができるのも、異なるタイプのLINE公式アカウントを保有するメリットといえるでしょう。
セグメンテーションの精度を高める3つの手法
ブランドロイヤルティーを向上させるためには、パーソナライズされた最適な情報を届けていく必要があり、そのためにはそのユーザーのことをよく知る必要があります。LINE公式アカウントを開設してすぐには的確なセグメンテーションを行うことはできませんが、資生堂はそれを可能にするための施策は行っていくべきだと考えています。
具体的には、友だちをセグメントするために、資生堂では三つの手法を取り入れています(または検討している)。アンケートによるユーザー情報の把握と、ワタシプラス会員のIDとの連携、および複数のLINE公式アカウントを友だち登録しているユーザーのアカウント間共有です。
アンケートは、スタンプをダウンロードするときの条件として、またはキャンペーン応募の条件として実施することが多く、例えば「dプログラム」アカウントでは、アンケートをもとにユーザーの肌タイプを分類し、それぞれのタイプに応じた情報配信を行いました。

「dプログラム」LINE公式アカウントでは、トーク上で行える肌タイプチェックを実施してサンプル品のプレゼントページにつなげている
ワタシプラス会員とのID連携も、「ワタシプラス」アカウントと一部のブランドアカウントで取り入れ、LINE公式アカウントの友だちがそもそも「ワタシプラス」の会員かどうか、会員であればどのブランドが好きで何を買っているのかなどを把握することもできるといいます。

「ワタシプラスの会員情報との連携は、実際の購買履歴まで追跡できるのでアカウントにおけるコミュニケーションの効果測定の観点からも有用」と語る吉本氏
最後のユーザー情報のLINE公式アカウント間共有は、企業が複数のLINE公式アカウントを保有しているからこそできる連携です。通常であれば、ひとりのLINEユーザーが複数のLINE公式アカウントの友だちになっていたとしても、それぞれのLINE公式アカウントに認識されるユーザー識別子はすべて異なります。しかし、同一企業(資生堂)が保有するLINE公式アカウントにおいては、同じユーザーであれば同一のユーザー識別子で認識することができるようになります。
LINE公式アカウントを横断したデータ連携はこれから取り組む部分が多いとのことですが、例えば「ワタシプラス」アカウントとブランドアカウントの友だちになっているユーザーに対しては、「ワタシプラス」アカウントからそのブランドに関する情報を配信するといったことなども考えているそうです。
効果測定はブランドの目的に合わせて
LINE公式アカウントを評価するためのKPI指標は、「ワタシプラス」とブランドアカウントで運用の目的がそもそも異なるため、それぞれで設定しています。
「ワタシプラス」がKPIとするのは、Webサイトへの送客数。「ワタシプラス」サイトへの送客数と、ブランドへの貢献という観点から「ブランドサイトへの送客数」も重要な指標として捉えています。そして、CRMを活性化していくためのID連携数を増やすという観点から「Web会員IDと連携している友だち数」、および、以上すべてのKPIの源泉となる「有効友だち数」(LINE公式アカウントの友だちのうち、ブロックしていないユーザー)が挙げられます。
「ECでの売り上げへの貢献」については、最終的な売り上げがサイトの仕様による部分も大きく、LINEのみでコントロールすることは難しいことから、CVは結果として把握するにとどめています。まず、LINEでできることとしてECサイトへの遷移(CTR)を意識し、PDCAにつなげることを心がけているということだ。
一方、ブランドアカウントの評価指標はブランドリフトです。LINEだけでなく、各ブランドではブランドリフトをアンケートによる意識ベース、アクションログによる行動ベースで測定していて、LINEにおいてもデータに基づく評価を行っています。ブランドアカウントが新しい接点としてターゲット顧客と出会うところから、購入意向が高まり実際のアクションにまでつながっているという効果を実感しているそうで、他ブランドの新規活用の可能性についても検討しているといいます。
コミュニケーション戦略に合わせてLINEを活用する
LINE活用を検討している企業の担当者(特に複数ブランドを保有する企業)へのアドバイスとして、意識すべきことについては以下のように語ってくれました。
まずは、LINEをブランドのコミュニケーション戦略と連動させることが重要ということ。LINEはあくまでコミュニケーションを図るための手段であり、LINEを使うことが目的となってはいけないと話します。ブランド認知から購買、リピートまでのどこでどのようにLINEを活用し、それを評価するためのKGI・KPIは何なのかをしっかりとプランニングできてはじめて、一つのアカウントに集約すべきか、それともブランドごとに個別で持ったほうが効率的なのかを、コスト面も含めて判断した方がいいとアドバイスを送ります。

「先にLINEから考えるのではなく、ブランドが生活者にコンテンツを伝えるための戦略に合わせてツールを選ぶべきで、それにLINEが合う場合に活用すればよい」と仙田氏は語る
資生堂ではブランドアカウントの運用を1~3名のブランドのマーケティング担当者が兼任で担い、それをメディア統括部やEC事業推進部などが横串でサポートしていくという体制をとっています。どうしても手段が目的化しがちな中で、LINEありきではなく、何のためにLINEを活用するのか、ブランドのコミュニケーションとどう連携させるのか、といった視点を各LINE公式アカウント担当者に植え付けていく土壌づくりが必要です。
また、メッセージを配信する際に、最初からユーザーのセグメントを細かくしすぎないことも重要なポイントの一つ。細かくしたいという欲求を抱くかもしれませんが、セグメントを切るたびに情報配信の設定に必要なリソースが増えていくこと、その一方で対象となるユーザーボリュームは小さくなっていくことは意識するべきです。
いかにパーソナライズされたコミュニケーションができるか
資生堂がLINE活用を通じて今後目指すのは、LINEの友だち一人ひとりに対する最適なコミュニケーションの追求です。それが、LINE公式アカウントと友だちになってくれたユーザーを大切にすることであり、継続的な関係性維持につながっていくと考えていると語ります。

「横断的な生活者起点の情報と、個に最適な情報をLINE公式アカウントから発信することで友だちとのコミュニケーションの精度を一つひとつ高めていきたい」と語る川口氏
データに基づきユーザーと個別かつ双方向のやり取りができるLINE公式アカウントは、資生堂が求めるパーソナライズされたコミュニケーションの実現に適したサービスです。さらに、資生堂はLINEが「プラットフォーマー」としてユーザーとのコミュニケーションを発展させていく中で、それぞれのユーザーをより良く知るために情報の取得手段を多様化させ、情報精度も向上させることに期待を寄せます。LINEを通じて得られる情報をもとに、資生堂がいかにパーソナライズされたコミュニケーションをつくり上げていくのか、多くの企業にとっても参考になる取り組みです。
(公開:2018年4月/取材・文・写真:豊田義和)
※本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです
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