企業とAIの距離を近づける——LINEのAI事業「LINE BRAIN」とLINE公式アカウント活用
LINEのAI技術の外販事業「LINE BRAIN」は現在、7種類のプロダクトを展開しています。プロダクトの1つである「LINE BRAIN CHATBOT」とLINE公式アカウントを活用したユースケースや事例について、「LINE Biz-Solutions Partner Program*」で認定するTechnology Partner向けに開催したセミナー内容とともに紹介します。
「LINE Biz-Solutions Partner Program」は、LINEが提供する各種法人向けサービスの拡販および機能追加・改善をより積極的に推進することを目的に導入された、「LINE Account Connect」、「LINE Ads Platform」、「LINE Sales Promotion」の各プロダクトにおいて、広告代理店やサービスデベロッパーを認定・表彰するプログラムです。
7種類で構成されるLINE BRAINのAIプロダクト
法人向けLINEアカウントの「リデザイン」に伴い、LINEは今年4月から新プラットフォームの「LINE公式アカウント」をリリース。0円からスタートできる従量課金制の新たな料金体系を採用するとともに、用途・目的に応じた柔軟なアカウント運用が可能になりました。
また、LINE公式アカウントは各種サービスを組み合わせることで、その活用メリットを広げることが可能です。LINEが自社開発したAI技術「LINE BRAIN」も、そうしたサービスの1つです。
LINE BRAINとは、チャットボット・音声認識・OCR(文字認識)などのAI技術を企業が“より使いやすい”状態で利用できる各種サービスの総称です。LINEが設計・開発・販売しているAIアシスタント「LINE Clova」はもちろん、LINEの各種サービスのバックエンドにもLINE BRAINのプロダクトが適用されています。Technology Partnerに向けたセミナーに登壇したLINE株式会社の飯塚純也は、LINEが有するAIプロダクトの現状について次のようにまとめます。
「2019年6月に開催した『LINE CONFERENCE 2019』での発表時から、AIプロダクトは7種類に拡大しました。それが『CHATBOT(チャットボット)』、『TEXT ANALYTICS(言語解析)』、『SPEECH TO TEXT(音声認識)』、『TEXT TO SPEECH(音声合成)』、『OCR(文字認識)』、『VISION(画像認識)』、『VIDEO ANALYTICS(画像・動画解析)』です」(飯塚)

さらに飯塚は、LINE BRAIN全体のステータス&ロードマップ(下図参照)について言及するとともに「2019年中は、特にパートナー企業のPoC(Proof of Concept=概念実証)をサポートしていきたい」とし、同フェーズで注力するプロダクトに「LINE BRAIN CHATBOT」を挙げます。

日本語の自然言語分析に強い「LINE BRAIN CHATBOT」
LINE BRAIN CHATBOTは自然言語処理技術と機械学習アルゴリズムに基づく強力な対話エンジンによって、ユーザーからの問い合わせ対応や、店舗における発注・予約業務の効率化など、パートナー企業のさまざまな課題解決が見込めます。また、LINEが提供するサービスの1つである「LINEかんたんヘルプ*」でも採用されています。
ユーザーがLINEの操作に関する疑問点をキーワード入力すると、チャットボットとの会話形式でその解決法を提示してくれるLINE公式アカウントです。

「他社のAIと比較しても、LINE BRAIN CHATBOTはアジア系の言語、特に日本語の自然言語分析に強く、4つの高性能エンジンが複合的に組み合わされたプロダクトはとても高い正答率を誇ります。LINE公式アカウントの最新のメッセージタイプ(上図参照)と連携できる優れたUX/CX設計に加え、開発に用いるチャットボットビルダーではブラウザ環境から各種設定・シナリオ作成・レポート・再学習までワンストップで行うことができます。Q&Aの一括アップロードも可能で、専任のエンジニアがいなくても運用しやすいため、コスト削減も期待できます」(飯塚)

また、セミナーの特別セッション『事例に学ぶ、成功するチャットサポートとは』では、LINEのTechnology Partnerであるモビルス株式会社(以下、モビルス)代表取締役社長の石井智宏氏がゲストとして登壇しました。

モビルスは「AIをはじめとしたテクノロジーによるコミュニケーション変革」を掲げ、主力商品として大手のコンタクトセンター(従来のコールセンターのように電話だけでなく、メールやその他のツールも使って顧客対応を行うセンター)向けに、オペレーターの支援やKPI/統計管理機能などのチャットサポートツール「mobi Agent(モビエージェント)」を展開しています。
「国内にチャットボット関連企業が乱立し、企業が寄せる関心も一巡した現在、当社はチャットサポート、つまり自動応答(ボット対応)とオペレーター(有人対応)が連携できるシステムの提供を行っています。チャットボットの回答精度は8割程度を目標にし、複雑な質問は人がカバーしながらエンドユーザーのニーズに答える。こうした『ボットと人の役割分担』が、今の市場では求められています」(石井氏)
LINE公式アカウント上のボット対応で、保険金請求の受付を自動化
mobi Agentは、拡張機能を持った各種mobiシリーズを組み合わせることで、コミュニケーションプラットフォームを形成します。LINEを含むさまざまなインターフェースにも対応するほか、各種mobiツールとの連携によって、自動応答とオペレーターを組み合わせた「総合的なチャットサポート」を提供しています。

そうした「総合的なチャットサポート」を提供するmobi Agentの導入事例として、ペット保険を提供するアニコム損害保険株式会社の自動応答サービス事例が紹介されました。
「自動応答サービスの1つが、保険金請求の受付フローの自動化です。従来は年間約60万件の保険請求がペーパーベースで処理されていましたが、これがすべてチャットボットによって自動化されました」(石井氏)
保険金請求受付の自動応答サービスでは、LINEのトーク画面のリッチメニューから「保険金請求」をタップすると自動応答シナリオが開始され、ユーザーがワンタップで質問に対して回答していきます。最後に動物病院の診療明細書の画像を送信して入力内容を確認すれば、申請が完了するというフローです。


また、契約者向けサービスである「どうぶつホットライン」も好評です。同サービスは、LINE公式アカウントのトーク画面からペットの病気・しつけに関する悩みを写真や動画とともに送信すると、獣医師が回答してくれるというものです。
「一問一答形式の応答、あるいはシナリオによる応答を組み合わせて開発したチャットボットには保険金請求、加入手続き、FAQ回答などを任せ、『どうぶつホットライン』のような専門性の高い相談・対応は有人で対応する。『ボットと人の役割分担』が進んでいることを示す事例です」(石井氏)
なお、mobi AgentはすでにLINE BRAIN CHATBOTとの連携を完了しており、今後、LINEのAIプロダクトを活用したより良いサービスを展開していく予定です。
ユースケースをベースにした「AIソリューション」の提供を
LINEの飯塚は、「外部企業とのパートナーシップを通して、AIプロダクト単体の提供ではなく、ユースケースをベースとしたAIソリューションの提供を目指す」といいます。
実際、LINE BRAINプロジェクトからは、SPEECH TO TEXT、TEXT TO SPEECHなどの複数のAIプロダクトで構成される、レストラン・飲食店向け電話自動応答サービス「LINE AiCall」も誕生しています(下記動画参照)。電話してきた人の言い回しを解釈しながら、さまざまな予約行動(予約時間の記録、時間変更、キャンセルなど)に対応するAIソリューションです。
セミナーの最後には、チャットボットの開発を無償で始められるパートナー企業向け「Catch-up Program」について紹介するとともに、次のように総括しました。
「LINE BRAINは、弊社が掲げる“CLOSING THE DISTANCE”というミッション通り、企業とAIの距離を近づける事業だと考えています。AIカンパニーとして、今後、多くの企業のサービスにAIの適用範囲を拡げ、マーケットに大きなインパクトを生み出したいと考えています」(飯塚)
(取材・文:安田博勇、写真:山﨑美津留)
- 関連タグ:
- #インタビュー