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セミナーレポート 2018.06.25

メディアの終焉?消費者に委ねる新しいマーケティングのカタチ

登壇者(画像左から)
株式会社ポーラ 宣伝部 プロダクトコミュニケーションチーム 北川裕彬氏
株式会社クレディセゾン デジタル事業部 デジタルマーケティング部 データビジネス課 栗田宏美氏
株式会社中川政七商店 取締役 兼 コミュニケーション本部 本部長 緒方恵氏
アウディジャパン株式会社 マーケティング本部メディア&クリエイティブマネージャー 井上大輔氏

LINEでは、2018年3月よりメディアという概念に疑問を投げかけ、メディアに代わる新しい概念である“カタリスト”について議論する勉強会を、アウディジャパン株式会社の井上大輔氏(以下、井上氏)主宰のもと開催しています。

2018年5月15日には、アドバタイジングウィーク・アジアの『LINE Meet-up Lounge』で、上記の勉強会のメンバーである井上氏と、株式会社中川政七商店の緒方恵氏(以下、緒方氏)、株式会社ポーラの北川裕彬氏(以下、北川氏)、株式会社クレディセゾンの栗田宏美氏(以下、栗田氏)の4人が登壇し、LINE株式会社 高品美紀をモデレーターに、カタリストについてのトークセッションを開催しました。

消費者同士のコミュニケーションを促進する“カタリスト”

井上大輔氏

井上氏:メディアは本来『ミディアム』の複数形なので中間に入るもの、という意味。企業と消費者の中間に入って、企業のメッセージを消費者に仲介するものですが、昨今はメディアそのものへの接触時間が減っています。テレビや雑誌、ネットメディアを見る時間を削って、消費者はLINEやfacebookなどで消費者同士のコミュニケーションを楽しんでいます。企業はそこに入り込まないと存在感を発揮できない。カタリストとは、メディアに変わる概念として、そうした消費者と消費者のコミュニケーションの間に入り、消費者同士のコミュニケーションを円滑にするものと定義しています。

企業がカタリストをマーケティング利用していくには、大きく二つの課題があり、まずはどのような手段があるのか、ということ。企業が提供するLINEスタンプなどはわかりやすい例ですが、他にどのような手段があるのか。まずはこの手段をメディアやプラットフォーマーと一緒に開発していかなくてはいけません。

もう1つが、例えばLINEスタンプなどの手段を使って、どのようにマーケティングをしていくかというhowの議論。ここに関して私の仮説は「とにかく消費者にゆだねる」ということです。本年5月25日から施行のEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)が話題ですが、このレギュレーションの一番の特徴はその背景にある思想で、クッキーなどを含め企業が保有する個人データの本当の所有者は企業ではなく個人である、というものです。これと同じく、広告コミュニケーションや極論を言えばブランド自体も、それを消費するオーディエンスのもの、と割り切って、それをどう受け取りどう使うかは消費者にゆだねてしまう、という考え方が重要なのではないか、という仮説を持っています。

この考え方に賛同したのが栗田氏です。栗田氏は「クレジットカードのサービスはどんどん差別化が難しくなってきており、消費者にとっては『このカードを選ぶ理由』がますます大事になってきています」と語ります。そのため、「これからはカード会社としてソリューションを提供するだけではなく、会員同士の繋がりを創り出すことも意識していかなければ」と述べています。

緒方恵氏

緒方氏も企業のサービス提供の形が変わっていく例として、自社の表参道店舗での事例を挙げました。

緒方氏:旧来の店舗接客のあり方である『お客様これはいかがですか』『こちらが本日入荷した新商品です』といった店員からお客様という方向性で成り立っていたコミュニケーションではなく、お客様主導でコミュニケーションが始まる形に変化させたくて、店舗の商品をなんでも試せる店舗に切り替えました。
例えばレインコートに水を流して撥水効果を試せたり、ジャムを試したかったらパンを持ってきてみたり。そうなると店員とお客様との関係性が変わって、『あれ試したい!』とお客様から店員に積極的に声を掛けることで会話が始まるコミュニケーションが主体になり、店員からの提案ではなくお客様からの提案で会話が進みます。このように関係性が変化した結果、お客様との接触時間が増え、比例的にお客様単価もあがりました。会話が素材になってコミュニケーションが活発化された結果だと思います。

各業界でどんなカタリストの形があるのか?

それぞれの登壇者からカタリストについての意見が出たところで、どのようにカタリストが生まれるのかという話題に移りました。

緒方氏:例えばTwitterの企業アカウントなどもいい例かもしれません。Twitter上での会話は基本1対Nです。そしてその会話というのは、こちら側の投稿にツッコミどころがある時に特に盛り上がります。そして盛り上がった会話(ツッコミ)すべてにキッチリ反応をすると、それが関係性の構築に繋がり、以後のさらなるツッコミ関係に育ちます。ですので、会話にツッコミどころという伸びしろを設計しながら運用する、というのもカタリスト的な考え方の1つだと思っています。ただこれは、カタリストが持つ、いくつかのパターンの1つにしか過ぎません。

栗田宏美氏

栗田氏:カタリストは、時間がかかったり、狙い通りにいかないことのほうが多い気がしています。『東池袋52(フィフティーツー)』という社員のアイドルグループを作り、プロモーション展開を仕掛けていますが、自分たちが完全にコントロールしていないところでコミュニケーションを生んでいます。ありがたいことに『東池袋52』のファンがたくさんできて、ファンの方同士でTwitter上でのコミュニケーションが活発になっています。そこまでくると、その方がセゾンカードを持っているかどうかなんて分かりませんし、関係なくなってきます。しかし、52のファンの方がセゾンカードをお持ちいただいたり、永久不滅ポイントをCDに交換していただいたりしていることが、1年経って、SNSのコミュニケーションで見える化されてきたりしています。“結果的に“カタリストになっているということはあるかもしれません。

一方で、北川氏は化粧品市場に起きている変化を語りました。

北川裕彬氏

北川氏:最近は、中古の化粧品までもがメルカリなどで売買されるようになっています。新しいものを気軽に試したい、自分に合ったものを探したいというニーズから、CtoC間の売買がここまで広がってきたことに驚いています。商品がメーカーの手を離れて個人に委ねられるということが、まさに化粧品業界にも起きています。

いざ、誰がカタリストを見守るのか。評価の軸は?

セッション終盤、「社内において誰がカタリストを考えていくべきなのか?」という質問を、高品から登壇者へさせて頂きました。

高品美紀

井上氏:コンテンツをメディアとして捉えるのか、カタリストとして捉えるのか、という話なので、コンテンツとしてマーケティングが主導するべきなのかなと思っています。ただ、既存のマーケティングの効果測定では測れないので、その理解を経営トップ含め社内で醸成しないといけないですね。そういった意味で、経営トップも関わる必要も出てきそうです。

緒方恵氏と井上大輔氏

緒方氏:僕の解釈では、みんなで目を配っておく必要があるものだと思っています。自然発生的に起きたことをキャッチアップできるのが基本になるのかなと。現場で見つけて、上がその流れを後押しできるように、すぐにアクセル踏んでくれるかどうか。そういった環境が大切だと思っています。逆説的に言うと、社員が自社のイケてる評判を常にチェックしたくなるくらいのマインドにどう持っていくか、ということが大事かなと。

北川氏:マーケティングはもはや思想や概念であると井上さんが著書でもおっしゃっていました。カタリストも近いのかなと考えています。何を効果にするのかによって、どんな部門にも取り入れられる思想だと思っています。売り上げなのか、SNS上でのメンションなのか、あるいは企業のCSR活動が伝わっていくことなのか…目的によって異なるので、どこの部門と決めるのではなく、全社的に考えていく思想や概念なのかなと思っています。

北川裕彬氏

栗田氏:本当は全員で…と言いたいところですが、無理があるのではないでしょうか。当社は3000人以上社員がいるので、こういったことに向かない人も一定数いると思っています。ただ、お客様が個人か法人かに関わらず、コミュニケーションが発生する場に携わる人や、それを仕事にしている人には考えてほしいと思っています。

北川氏:僕もその考えには共感します。カタリストを施策へ落としていくときに、マーケターに求められるスキルは、今世の中に起きているコミュニケーションを想像したり、起きていないことを創造する力であったり、それに対して自社がどう触媒していけるかを考えていく力なのではないかなと思っています。

終わりに

参加者との会話も多く、笑顔あり、真剣な話あり、新しいマーケティング領域の示唆に富んだ今回のトークセッション。トークセッションの中では、LINEスタンプもカタリストの具体例として挙げていただきましたが、カタリストはまさにLINEが常に向き合わなければならない課題です。

LINE上でのユーザー同士のコミュニケーションをさらに活発化させるためにはLINEスタンプ以外でどんなものがありえるのか?LINE上で法人向けアカウントより配信するメッセージはどうすればカタリストになれるのか?など、今後も「サービスとしてのLINE」と「メディアとしてのLINE」の両方の視点を持ちながら、皆さんとの勉強会を通して、カタリストについての考えを深めていきたいと思います。