セミナーレポート 2019.06.17

LINEが「地方公共団体プラン」で目指す “持ち運べる役所”とは

LINE株式会社は、2019年5月21日より「地方公共団体プラン」の提供を開始した。本プランにより、地方公共団体はLINE公式アカウントを無償で利用できるようになる。受付開始に合わせて開催された「地方公共団体向けLINE活用セミナー」の内容とともに、地方公共団体プランの詳細を紹介する。

LINE公式アカウントの「地方公共団体プラン」とは?

LINE公式アカウントは通常、月額固定費と無料メッセージ通数に応じてフリープラン・ライトプラン・スタンダードプランという3種類のプランが存在する。

LINE公式アカウントの料金プラン

今回の「地方公共団体プラン」は、オプション機能は別途費用がかかるものの、月額固定費0円、メッセージ通数も無制限でサービスが受けられる特別なプランになっている。機能も通常のLINE公式アカウントと差異はないが、申し込みにあたっては以下の条件が定められている。

  1. 申請対象アカウントが「認証済アカウント」であること
  2. 申請元が都道府県市区町村(区は東京23区のみ)になっているかどうか
  3. 本プラン適用対象は「1地方公共団体につき1つ」に限られ、他の申込みが適用されていないこと
  4. アカウントの名称が「地方公共団体名」になっていること
  5. 本プラン申込者がアカウントの申込者と一致していること

 

  • ※お申し込み方法、プランの詳細はコチラ

では、LINEがなぜ、地方公共団体向けのサービス無償化に踏み切ったのか。セミナー冒頭の開会挨拶に登壇したLINE株式会社 執行役員 公共政策・CSR担当の江口清貴は、「CLOSING THE DISTANCE」というLINEのコーポレートミッションを紹介しながら、“人と行政”の距離を縮めるための施策だと強調し、行政が抱える地域課題の解決策としてLINEを活用してほしいと訴える。


「我々は決して、行政のプロではありません。ただし、LINEという”ツール”を通して人と行政を近づけることができると考えています。日本がデジタル化に向けてさらに大きな一歩を踏み出そうとする今、この流れに乗って多くの自治体様でLINEを活用していただきたい。そのための施策の1つが、『地方公共団体プラン』です」

LINE執行役員 江口清貴

LINE株式会社 執行役員 公共政策・CSR担当 江口清貴

行政サービスの未来——「持ち運べる役所」とは?

LINEが地方公共団体プランの提供を契機に目指すのが、「LINEによる”新しい自治体”」をテーマに推進する「持ち運べる役所」構想だ。


先日、日本政府は「デジタル・ガバメント」推進の一環として「官民データ活用推進基本法」を施行し、電子行政分野における取り組みとして方針と実行計画を策定した。このなかで、「行政サービスの100%デジタル化」のために不可欠な三原則を、下記のように掲げている。

 

1.デジタルファースト(個々の手続きが一貫してデジタルで完結)

2.ワンスオンリー(一度提出した情報は再提出が不要に)

3.コネクテッド・ワンストップ(民間サービスとの連携を含めたサービスのワンストップ化)


さらに、「地方公共団体におけるデジタル・ガバメント」としてデータ活用促進、行政手続きのオンライン利用促進が記されるなど、地方自治体にとって住民向けのデジタルサービス推進が喫緊の課題だと読み取れる。


「行政手続きを原則、電子申請に統一するデジタルファースト法案も成立する見通しで(2019年5月24日に成立)、将来的にはスーパーシティー構想等の議論も進んでいます。これらを背景に、LINEが自治体の皆様と目指したい行政の姿とは、市民の誰もが時間・空間を気にすることなく連携できる行政サービスです。それが、市民の皆様にとっての『持ち運べる役所構想』です」

“持ち運べる役所”構想について語った公共政策室 室長の福島直央

“持ち運べる役所”構想について語ったLINE株式会社 公共政策室 室長の福島直央

GovTechを実現した事例から「持ち運べる役所」を紐解く

では、「持ち運べる役所」とは、いったいどんな行政サービスなのか。セミナーでは「LINEによって実現されたGovTech事例」として、LINE株式会社 Developer Relationsチーム GovTech TF TF長の中嶋一樹が既に開始されているユースケースについて紹介した。


福岡県福岡市では、行政サービスとして「粗大ごみ受付Bot」が稼働している。使い方は至って簡単。LINEのトーク上でのチャットによる会話で、簡単に粗大ごみ収集の申し込みを行うことができる。

福岡市の粗大ごみbot

 

千葉県市川市では、「住民票オンライン申請」が進んでいる。LINEのトーク画面の指示に従いながら住民票の種類等を選択。本人確認や決済もLINEのプラットフォーム上で行い、申し込みが完了すれば郵送で住民票を受け取ることができる。また、ユーザーの問い合わせにAIが回答する「チャットボット」も実装されている。

 

千葉県市川市で進む「住民票オンライン申請」

「福岡市も市川市も極めてスムーズなユーザー体験を提供しています。福岡市の事例では、既存オンライン受付の所要時間が2分16秒のところ、LINEでは44秒に削減されました。利用者へのアンケート(5,000件)でも、97%の方が『便利だった』と回答しています。住民票申請についてもパソコンを使ったオンライン申請を実施している自治体もありますが、現実的にはマイナンバーカードやICカードリーダーが必要になるため、利用率は高くありません。その点、LINEは老若男女問わず、住民の誰もがすぐにでも使えるアプリケーションであるということが最大の強みだと考えています」

先行事例について語るDeveloper Relationsチームの中嶋一樹

先行事例について語るLINE株式会社 Developer Relationsチーム GovTech TF TF長の中嶋 一樹

地方自治体の職員は、窓口対応など膨大な定型業務に対応している。LINEの導入によってこれらの業務の負担を減らしていくことで、「街の未来」を考える新規事業に注力できる環境が生まれる——。


中嶋は「LINEによって業務負担が軽減されることで、自治体はもっとクリエイティブかつイノベーティブな機関となり、働くのが楽しい職場へと変わっていくのではないでしょうか」と語った。

全国へ広がるLINEの相談窓口

LINEが活用されているのは、各種手続きに代表される行政サービスだけではない。LINEによる児童相談事業に関して、「LINEを活用した相談事業の効果」をテーマに、LINE株式会社 公共政策室 グループ渉外室 副室長の村井宗明が紹介した。


若者の自殺が社会問題として認識されて久しい。各自治体も前途ある若者を救おうとさまざまな取り組みを進めてきたが、スマホの普及とともに若者のコミュニケーション方法は激しく変化した。

「コミュニケーション系メディアの平均利用時間」を詳しく見ていくと、10代の若者が平日の1日で利用するメディアとして最も多いのがSNSの54分。一方、ネット通話は4分だが携帯電話や固定電話(それぞれ0.6分と0.3分)と電話はあまり利用されていない。休日は全体的な消費時間が伸びるものの、この傾向は変わらない。

総務省「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書概要PDF」より

「日常生活のなかでほとんど電話を使わない」という若者が増えている世相を背景に、「自治体によるいじめ等の電話相談の仕組みは、すでに限界が生じている」と村井は警鐘を鳴らす。


「10代、さらに20代の若者はたとえ電話を使っていたとしても、現実にはLINE等に実装されたオンライン電話がほとんどです。若者の命を守るべき行政の相談窓口が、行政側の都合で一般的な固定電話のような古いツールに頼っていても、問題は解決しません。若者に行政が合わせるからこそ、彼らの命が守れるのだと思います」

LINE株式会社 公共政策室グループ 渉外室 副室長の村井宗明

そうしたなかで始まった取り組みが、LINEと文部科学省が進める「SNS等を活用した相談事業」だ。文部科学省が18年度に「SNS等を活用した相談体制の構築事業」として開始した取り組みであり、19年度も継続された。LINEは本事業において無償プランを適用、運用ノウハウの共有も行っている。


「電話相談件数に比べ、LINE経由での相談件数は平均で26.4倍」という結果も出ている。すでに「児童虐待を防止するためのLINE相談」などの“横展開”にもつながっており、今後もひきこもり相談、LGBT相談等へ拡大していく。


すでに社会への実装が進められている“持ち運べる役所”構想や相談窓口事業に関して、セミナーに参加した自治体関係者からも質問が相次いだ。行政が抱える課題解決に向け、「地方公共団体プラン」を皮切りにLINEの支援は今後も続いていく。