セミナーレポート 2020.08.31

Technology Partner3社が語る、LINEのプラットフォームを活用した「次世代のCX」とは

2020年6月29日、LINEはオンラインにて「LINE CX DAY」を開催した。新型コロナウイルスの感染が拡大し、消費者のライフスタイルや生活行動が大きく様変わりする中、企業サービスのデジタルシフトが急速に進んでいる。同イベントのDiamondスポンサーであるパートナー企業3社が登壇したセッションを振り返るとともに、各社が考える「次世代CX(顧客体験)」について詳述する。

ユーザーに寄り添う「究極のOne to One体験」の提供へ

LINE CX DAYでは、LINEを使った先進的な顧客コミュニケーションを実践する企業や、その導入を支援するTechnology Partnerが登壇し、今後のCXを構想するさまざまなアイデアが飛び交った。

基調講演に続く18のセッションのうち、最初に用意された「LINEのプラットフォームを活用した 次世代のCX」では、LINEのAPIを活用したサービスを開発・提供するパートナー企業でイベントにDiamondスポンサーとして参画した3社が登壇。「新しいCXの構想」をテーマに議論が交わされた。

セッション中の写真

30分間のセッションで、各社が「LINEのプラットフォームを活用して実現したい世界観・次世代CX」について解説。セッションの最後には、モデレーターを務めたLINEの胡桃澤圭佑が「ユーザーに寄り添う『究極のOne to One体験』の提供こそ、LINEのプラットフォームを活用した次世代CX」と総括した。

 

セッション終了後、各社に伺った話をセッション登壇順に紹介する。

本多さんの写真

株式会社サイバーエージェント LINEブランド販促局 マネージャー

本多立紀氏

永井さんの写真

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社

第二メディアソリューション本部 シニアマネージャー 永井将史氏

石原さんの写真

株式会社デジタルホールディングス(旧 株式会社オプトホールディング)

グループ執行役員 テック&ソリューション担当 石原靖士氏

次世代CXは“便利”と“最高”の二極化へ

本多立紀氏(以下、本多氏)が所属する株式会社サイバーエージェントは100名超で構成されるLINEチームを発足し、クライアントのCX向上のため配信設計・クリエイティブ・運用体制などに注力している。

 

セッションで本多氏は、「オンラインとオフラインのデータ一元管理」の必要性、その先にある「OMO(Online Merges with Offline)時代の幕開け」について言及した。その具体的な構想として、LINEのユーザー情報を参考に自動販売機のディスプレーが変化する施策、AR機能を使った実店舗の接客体験向上の施策などについて説明した。

本多さんの写真

「例えば、飲料業界は自社の商品を購入したユーザー属性を細かく把握することが難しいのが当たり前でした。しかし、我々がこれから実現したいOMO施策では、ユーザーが自社の商材やサービスの情報に接触してから購買に至るまでの行動データを一元管理し、ユーザーにとっても購買をオンラインかオフラインどちらで行うか選択しやすくなります。その意味で、多くの利用者数を抱え、APIなどを用いてさまざまなカスタマイズを行うことができるLINEのサービスは我々のビジョンとの親和性が高く、日本国内で唯一それを実現できるメディアだと考えています」(本多氏)

図版

さらに、本多氏は次世代CXについて「“便利”と“最高”の二極化に向かう」と語る。

 

「“便利”というのはデジタル進化の象徴ですよね。例えば、レシートをはがきに貼って送るようなキャンペーンも、写真を撮って送るだけで応募できるようになりました。LINEを活用して実際に行われている『便利・気軽・簡単』といった世界観は、今後も継続して求められていくでしょう。

一方で、ユーザーと広告主の双方にとって“最高”といえる世界観がより重要視されるようになると思います。言葉の捉え方は人それぞれですが、単に“便利”というだけではなく、『最高だ!』と感じてもらえるCXの創出を、我々はより強く求められていくと考えています」(本多氏)

深層課題を掘り起こす? “ぬくもり”を持つAIロボット

永井将史氏(以下、永井氏)が所属するデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(以下、DAC)は、マーケティングテクノロジーのリーディングカンパニーとして、メディアサービス事業、ソシューションサービス事業、オペレーションサービス事業を軸に、企業や媒体社の課題解決に取り組んでいる。

 

DACでは社内のデータサイエンティストによるLINE公式アカウントの効果分析なども行っており、永井氏は「企業アカウントの投稿内容を事前に閲覧してからフォローすることができるTwitterやInstagramと比較して、友だち追加というアクションで、よりフランクなつながりを持てるのがLINEの特徴だ」と分析する。

永井さんの写真

「LINE公式アカウントを使うと企業とユーザーの距離は近くなりますが、ブロック機能などにより、関係性においてユーザーが“上位”になることもあります。そのため、コミュニケーションには細心の注意が必要ですが、それがうまくいけば、企業とユーザーとの関係はさらに濃密になり、購買行動などのユーザーアクションを促す可能性が高くなるといえます。つまり、CX向上に注力することは、企業の経営的なインパクトにもつながるのです」(永井氏)

 

永井氏が次世代CXのキーワードとして提示したのは「生活者を深く理解した上での体験拡張と、クリエイティビティー」だった。

 

「予算10万円で“プロジェクター”の購入を検討しているユーザーがいるとします。単なるAIアシスタントだと、予算内で買える新発売の製品を見つけてくるでしょう。しかし、これがLINEのプラットフォームを活用した“ぬくもり”を持つAIロボットならば、『プロジェクターが欲しい』というニーズの裏側に、例えば『家族団らん』という購入動機を推測し、“予算10万円で行ける家族旅行のプラン”を提示するかもしれない。LINEにはこうしたアイデアを実現させるユーザーの膨大な対話データが蓄積されているでしょうし、それらを利活用することができればLINEらしい世界観を持った次世代のCXが実現するかもしれません」(永井氏)

図版

“レガシーシステム&ポリシー”という課題を打破し、DX推進を目指す

石原靖士氏(以下、石原氏)が所属する株式会社デジタルホールディングス(旧株式会社オプトホールディング)は、長らくインターネット広告代理事業を中心に展開していたが、近年は集客からCRMまでのマーケティング支援、顧客起点のデータ蓄積・活用、事業・サービス開発支援、人材開発やAI事業の開発支援もサービスとして提供。7月には商号変更とともに、事業軸を「デジタルシフト事業」へと移し、ヒト・モノ・カネ・情報というすべての経営資源の至るところで、企業のデジタルシフト実現を支援している。

 

石原氏はCX主導のデジタルシフトを進めるうえでの課題として「レガシーシステム&レガシーポリシー」というキーワードを挙げた。

 

「大企業・業界団体のシステムは社会背景や歴史を踏まえず、過去のルールに則って設計されがちなことから、その時代に適したシステムを開発できず、なかなか他社での普及も難しい状況になっています。例えるなら、しっかりとした地盤ではなく、石垣の上にマンションを建設しているような状態です。弊社は地盤――つまり、社会背景や歴史を踏まえながら、汎用性のあるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するご支援を行いたいと考えています」(石原氏)

石原さんの写真

石原氏は、メッセンジャーサービス「WeChat」を医療プラットフォームとして有効活用し、ユーザーのCXを向上させている中国企業の事例を紹介しながら「LINEが“和製WeChat”のような存在になる」ための一手として、デジタルホールディングスのグループ会社、オプトがLINEとの協業体制を強化するために新設したオープンイノベーション組織「LINE Innovation Center」、そして「株式会社オプトデジタル」(ともに2020年4月1日設立)について紹介し、具体的構想について言及した。

 

 

「例えば、保険業界におけるDXです。ユーザーが事故を起こしたら、まず損害保険会社に電話で連絡をして、その後の事故対応にも郵送や電話などのアナログな手続きが介在します。これらを同一のプラットフォーム上で完結することができれば、ユーザーのCXは間違いなく向上するでしょう。連絡はすべてチャットで完結し、事故車両の写真を撮って送信すればAIが画像を解析して見積査定もしてくれる。LINEのプラットフォームを活用すれば、こうした取り組みが実現できると考えています。

保険業界の他にも、旧態依然とした慣習が残る多くの基幹産業でDXが必要とされています。LINEプラットフォームを活用した次世代CXが追求できれば、どんな業界にも大きなインパクトを残せるでしょう」(石原氏)

図版

LINEのプラットフォームとAPIを活用し、企業が提供するサービスのCX向上に寄与するTechnology Partnerの取り組みに、今後も注目したい。

 

 

(取材・文:安田博勇、写真:山﨑美津留)