サービス情報 2020.10.15

スマホ以来のデジタルシフトに備え、ECで取り組むべき「接客DX」の是非

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を契機に、小売業におけるデジタル推進が加速している。ECに注力する企業も増加しているが、実店舗にはユーザーと直接対面しながら購買を促すことができる「接客」という利点がある。


この「接客」をデジタル上で実現する「接客DX」の是非や方法論について、EC事業に知見を持ち、LINEの法人向けサービスの認定講師「LINE Frontliner」でもある株式会社Zealsの遠藤竜太氏、株式会社ペンシルの倉橋美佳氏に話を聞く。

株式会社Zeals 取締役COO 遠藤 竜太氏

株式会社Zeals 取締役COO 遠藤 竜太氏


国内最速の2016年よりチャットボット×マーケティング領域のサービス「チャットコマース Zeals」を開始。加藤浩次を起用したTV CMも放映し、大手企業を中心に300社以上のお客様にサービス導入。京都大学大学院ヒューマンインターフェース論を修了しており、人と機械のインタラクティブなコミュニケーション設計に精通。現在は“チャットコマースから接客DXへ“をテーマにLINEを基軸としたDX提案を実施。

株式会社ペンシル 代表取締役社長 COO 倉橋 美佳氏

株式会社ペンシル 代表取締役社長 COO 倉橋 美佳氏


2003年、ペンシル入社。ダイレクトマーケティング支援を得意とし、ECサイトを中心に総合的なWebコンサルティングに従事。2013年にはWeb広告部門を設立し、プロモーションの企画提案から運用まで一気通貫でサポートを開始。LINE Creators Marketでは自作の手描きスタンプも販売している。2016年、代表取締役社長に就任し、ダイバーシティやDXを軸にペンシルグループ全体を牽引する。

スマホシフト以来のデジタルシフトが起こる

——お二人はLINEの法人向けサービスの認定講師「LINE Frontliner」の初期メンバーです。簡単な自己紹介とともに、これまでLINEとどのように関わってきたのかを教えてください。


倉橋:株式会社ペンシルは1995年に設立したウェブ戦略のコンサルティング会社で、特にダイレクトマーケティング系のウェブサイト支援を強みとしています。4年前に代表取締役社長COOに就任しましたが、それまではクライアント企業の担当者として課題に応じたコンサルティング業務を行っていました。その中で「LINE広告」や「LINE公式アカウント」を取り扱うようになり、今では総合的なLINE導入にまで支援の幅を広げています。


遠藤:2014年に設立したITベンチャー、株式会社Zeals(ジールス)の取締役COOとしてチャットコマース事業を統括しています。2016年から「チャットボット×マーケティング」領域のサービスとしてチャットコマース事業「ジールス」をスタートし、大企業を中心に300社以上にサービスを提供しています。


LINE広告のCPF配信がリリースされたころ、当社のチャットボットとCPF配信を連携させた施策を開始しました。現在はLINE公式アカウントを含めたフルファネルでの支援を行っており、段々とLINEとの関係性は深くなっています。

——事業の中でも特に小売業界との関係性が強いと思いますが、現場感として小売業界の変化やコロナウイルスの影響をどのように捉えていますか?


遠藤:スマートフォンの登場によって大規模なデジタルシフトが起こりましたが、コロナウイルスはそれに匹敵する影響を与えると考えています。小売業界ではコロナの感染拡大が沈静化すれば、再びオフライン(実店舗)にユーザーが戻ってくるという論調もあります。しかし、当社のチャットコマースの利用ユーザーには、これまでオフラインでしか購買経験がなかった人でも、コロナウイルスの感染拡大をきっかけに初めてオンラインで買い物をして、今後も継続して利用したいという人が大勢います。若年層だけでなく、50~60代の人でもチャットボットを器用に使いながら買い物を楽しんでいます。


一度便利な体験を知ってしまうと、店舗に行くのを面倒に感じてしまう——。コロナウイルスがきっかけとなり、そうした不可逆な変化が起こりました。それに気付かず、対応が遅れている一部の企業は、今後厳しい状況に直面するかもしれません。


倉橋:当社でも、EC化を進めたいという依頼だけでなく、「通常の営業活動などを含め、業務全体をDX化したい」という相談が増加しました。ECにおいてもユーザーニーズの二極化が進んでいて、「欲しいものを今すぐ買いたい」というニーズを追いかけるように、「エンターテインメントとして購買体験を楽しみたい」というニーズが生まれています。


旧来のニーズも依然として求められる一方、「デジタルでも購買体験を楽しみたい」というニーズを満たすような対応はまだまだ進んでいません。今後は百貨店の店員と会話しながら買い物を楽しんでいたような接客が、デジタル上でも求められる時代になっていくと考えています。


——仰る通り、オフラインでの接客は商品購買における大きな動機になっていたかと思います。前提として、ECなどのデジタル上で店舗のような「接客」を再現する必要があるのか、本題となる「接客DX」の是非についてどう考えていますか?


遠藤:もちろん、店舗で行われてきた「接客」のすべてをデジタル化する必要はありません。事実、日本国内のEC化率は7%程度で、90%以上の購買体験がオフラインで行われています。今後も変わらず店舗で購入したいと考えるユーザーが一定数存在する一方、ECという選択肢があれば、ECを選ぶというユーザーも必ず存在します。そうしたユーザーのため、ECという選択肢を用意しておく必要があると考えています。

遠藤:また、自動車業界・保険業界・旅行業界、そしてコスメ業界など、対面での接客・相談が有効な業界はEC化率が極端に低い傾向にあります。もし、デジタル上でも店舗に近いレベルの「接客=接客DX」が実現できれば、こうした業界でもEC化を進める意義が生まれます。EC化率が低い業界ほど、「接客DX」によって受ける恩恵は大きいかもしれません。

データの蓄積で接客のあり方が劇的に変わる

——接客をデジタル上で再現するために必要なものはありますか?


倉橋:まず前提として必要なのが、店員や販売員という接客を行っていた「人」の存在感です。人の名前も覚えてもらえないような接客が続けば、どんどん効率化の方向に進み、ユーザー視点では「その人ではなく、店舗で購入する」という意識に向かいます。「接客DX」を実現するためには、「その人でなければできないことを、どのようにデジタルへ移行するか」というテーマについて考える必要があります。


また、購買体験を均一化できる「場所」も「人」と同様に重要で、それがLINE公式アカウントのようなプラットフォームだと考えています。例えば、最初の購入体験は店舗でも、店員に案内されてLINE公式アカウントの友だちとして登録し、その後、デジタル上でのコミュニケーションによってECも利用するようになる――。


ただ、こうした世界観は、これまでのように店員や店舗に紐付いた売り上げの立て方や評価方法では、なかなか実現しません。今後、接客DXの実現とともに、売り上げを店員や店舗でシェアしたり、企業の評価方法を修正するなどの見直しが求められると思っています。


——評価方法を具体的にどんな指標で見直すべきでしょうか?


倉橋:リピート率も当てはまりますが、それよりもLTVが重要です。1年に1回しか来店しないとしても、何十年も関係性が継続しているユーザーは企業にとって大事な存在です。そうしたユーザーのデータを分類していけば、ECでも適切なタイミングと内容でコミュニケーションを図ることができます。今後、データから分かることの幅は確実に広がっていきます。データの蓄積によりデジタルのコミュニケーション、そして接客のあり方も劇的に変わっていくのではないでしょうか。

接客DXは「プロセスの再発明」

——では、「接客DX」の具体的な方法論について教えて下さい。


遠藤:ベンダーとしては「AIの活用」「機械との関係性の中で接客体験はデジタル化されていく」という未来について語りたいところですが、実際のところ、今の技術では店舗での接客を完全にデジタルで再現することは「不可能」です。そのため、「接客DX」を進めるに当たってはシンプルに「オンライン接客ツールを導入する」ことがスタートです。コロナウイルス拡大に伴い、ビジネス上ではビデオ会議が急速に普及しましたが、購買体験においてもそれが一般的になっていくと思います。ただし、接客DXという視点では一部、誤解が生まれるかもしれません。


例えば、以前までは「①実店舗を構える→②ユーザーが来店する→③店内で接客する→④接客によって購入」といった一連のフローが確立されていました。それがコロナウイルスの感染拡大によって来店が難しい状況になりましたが、単純に③の部分の代替としてビデオ会議ツールを導入しても意味がありません。


この場合、重視すべきは「②」である来店のデジタル化にあります。それが「接客DX」の、しかも大多数が気付いていない論点です。来店するという活動を、例えばLINEというプラットフォームなどを通じて再現してからビデオ接客につなげる。こうした流れをデジタルで構築することが「接客DX」で、言い換えれば「プロセスの再発明」を行うことです。まずはそれを認識する必要があります。

LINEは接客コミュニケーションのツールとしても優れている

——「接客DX」を実現する上で、LINEの可能性をどう評価していますか?


遠藤:例えば、ある企業がLINE公式アカウント上に「○○ LINE店」のような仮想店舗を立ち上げたとします。そこに入ってきたユーザーに対し、受付ボタンのような感覚でチャットボットがトークリストで接客を行う。ユーザーの要望によって、ビデオ接客や有人チャットに切り替えることもできる。こうした「プロセスの再発明」が、LINEでは慣れ親しんだ画面で簡単に再現することができます。店舗を構えると土地代などで何百万、何千万と投資が必要でしたが、LINEであれば必要ありません。これはなかなかすごいことだと思います。


倉橋:LINEはコミュニケーションツールとして優れています。まるで相手の声が聞こえるかのように、あるいは相手の顔が見えるかのようにコミュニケーションが取れる。例えば、相手が諦めての「ありがとう」なのか、もしくは喜んでの「ありがとう」なのか——。そうした人の機微を読み取っていくことが、対面接客では重要です。LINEでのトークやスタンプもそれに近いコミュニケーションが実現できるため、デジタル上で人と人を“つなぐ役割”を果たすことができる存在だと思っています。


——最後に「LINE Frontliner」として、今後の意気込みや展望について教えてください。


倉橋:今回のテーマである「接客DX」を実現するには、まだまだ多くのハードルを乗り越える必要があります。ただ、私自身はハードルが高くても絶対に挑戦すべきだと考えるタイプです。LINEを活用した新しい取り組みにクライアントを巻き込み、協力しながら新たな事例をつくっていきたいと考えています。

遠藤:ユーザー接点のチャネルとして、LINEには大きな可能性がありますが、だからこそ完璧に使い切れていない企業も多いと思います。特にチャットボットなどのテクノロジーを併用することで、より双方向性の高いコミュニケーションが実現できます。特に今回のコロナ禍で企業とユーザーのコミュニケーション設計は大きく見直されているため、チャットコマース事業で培ってきた我々の知見を、少しでも企業に還元できればと思っています。


(文:安田博勇、写真:小川孝行)