世界で戦える企業をつくる、LINEを活用したDX推進とは
日常のあらゆるシーンでITが浸透する現代、企業の競争力強化のためデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれるようになって久しい。しかし、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が2020年5月にまとめた最新レポートによると、自社のDX推進について「経営者は無関心か、関心があっても具体的な取り組みに至っていない」「全社戦略が明確でない中、部門単位での試行・実施にとどまっている」と回答する企業が約5割に上るなど、まだまだ道半ばだ。
DXを推進し、再び世界で戦える日本企業をつくるために今何をなすべきか。数多くの企業のデジタルマーケティングを支援し、LINEの法人向けサービスの普及拡大を行う認定講師である「LINE Frontliner」になった株式会社オプトの石原靖士氏、DOTZ株式会社 Co-Founder&取締役CMOの稲益仁氏に、LINEのサービスを活用したDX推進について話を聞く。

株式会社オプト DX事業 管掌 上席執行役員 石原靖士氏
新卒でネットワークエンジニアを経験したのち、20代で独立起業(Eコマース)を経験。2006年ネット広告の株式会社オプトに入社し、広告営業からCRMコンサルまでデジタルマーケティング全般を経験。2010年同グループのベンチャー企業の役員となり、CRMツールのSaaS事業を立ち上げ後、Yahoo!グループに事業売却。2015年オプトに帰任しテック組織、クリエイティブ組織を立ち上げる。2019年から事業開発組織の立ち上げ後、今年DX事業を発足。

DOTZ株式会社 Co-Founder&取締役CMO 稲益仁氏
2006年に株式会社サイバーエージェントに入社し、全国の著名な通販企業を中心に担当。その後にLTVを最大化する為のCRM専門組織を設立し、局長に就任。多くのCRM施策を実行する中でLINEビジネスコネクト(現LINE公式アカウント)と出会い、その驚異的な効果から、CRMソリューションをLINEへ一本化。LINE専門部署を設立し広告取扱高を3年で10倍まで成長させた。2019年12月に同社を退職。株式会社I-neでECセールス部の部長代理を務めながら、2020年11月にLINE専門代理店となるDOTZ株式会社を設立予定(10月現在、登記申請中)。
LINEがあらゆるサービスの総合プラットフォームになる?
——長年、デジタルマーケティング業界の第一線で活躍されてきたお二人ですが、最近の仕事内容について教えてください。
稲益:2019年末に13年ほど勤めた株式会社サイバーエージェントを退職してから、ECビジネスの事業コンサルティングを中心に、企業のマーケティング戦略、広告、CRM、クリエイティブ、物流など幅広い支援を行っています。
7月からはボタニカルライフスタイルブランド「BOTANIST」(ボタニスト)で知られる株式会社I-neでECセールス部の部長代理を務めていて、LINE公式アカウントを活用したマーケティング戦略にも携わっています。11月にはLINEを活用したマーケティング戦略専門の代理店であるDOTZ株式会社を設立し、小売やEC業界を中心にさらにLINEを利用したサービス提供に力を入れる予定です。
石原:株式会社オプトで企業のDX推進を担当しています。2020年4月、LINEとの協業体制を強化するために社内オープンイノベーション組織「LINE Innovation Center」を新設して、センター長に就任しました。LINEを活用して主に基幹産業系企業のDX推進を支援し、業務効率の改善を実現することを目指しています。
——LINE Frontlinerとなった理由を教えてください。
稲益:顧客企業のDXを推進する際、私たちのプランをLINEの“お墨付き”をもらって発信できれば、より届けやすくなると考えました。また、LINEの法人向けサービスの企画担当者と直接、意見交換ができるようになったり、イベント登壇などのバックアップを全面的に受けられるようになったりすることも心強いですね。LINE Frontlinerは、私たちパートナー企業にとって魅力的な制度だと思います。
石原:私はLINE Frontlinerに認定されることで、LINEの提供する法人向けサービスと顧客企業を強固につなげていけると考えました。
インフラ企業をはじめとする日本の基幹産業は、デジタル化の遅れをしばしば指摘されます。日本を再び世界と戦える国にするため、LINEを活用して企業のDXを推進していきたい。隣国である中国はチャットアプリ「WeChat」が浸透していますが、いまやコミュニケーションツールとしてだけでなく、ショッピング、ネット予約、デリバリーの手配、役所手続き、オンライン診療など、あらゆるサービスのプラットフォームとして機能しています。
LINE Frontlinerとして、LINEのサービスを活用したソリューションを顧客企業に提供し、その業務効率化とユーザーの利便性向上を図れば、LINEを中国におけるWeChatのような総合的なプラットフォームにしていけると考えています。
顧客目線に徹し、サービス設計を根本から変えるのがDX推進のカギ
——日本におけるDX推進の現状について教えてください。
石原:日本の基幹産業は、高度経済成長期からバブル期、いわばアナログの時代につくられた企業が多く、サービスは「顧客に提供してあげるもの」という感覚が根強く残っています。しかし、その感覚において設計されたサービスにデジタルツールを導入したとしても、CX(顧客体験)は向上しません。ですから、日本企業がLINEのようなコミュニケーションアプリやその他のデジタルツールを真に使いこなすためには、「顧客目線」に徹し、サービス設計を根本的に変える必要があります。
多くの日本企業は過去の成功体験に縛られ、サービス設計の改革になかなか踏み切れないというのが実状です。そこで「既存サービスのクラウド化」など、まずは部分的なデジタル化で成功体験を積み重ね、最終的に根幹となる事業をデジタル化してもらうという手法で企業のDX推進を支援しています。

稲益:まさに、「国道1号線を落とすために、側道から攻める」といったやり方ですね。
今回のコロナ禍が企業のDX推進を加速させると感じています。多くのユーザーが店舗に行くことを控え、ECを活用するようになりました。スーパーマーケットやドラッグストアなどと異なり、百貨店やバラエティーショップなどは来客数と売上がともに激減しています。新型コロナウイルスの感染拡大により「顧客が来店する」という前提が崩れた今、生活に必要不可欠な商品を扱わない小売は、サービス形態を変えていかなければなりません。
一例を挙げると、中国のライブコマースアプリ「ShopShops」が世界中で支持されています。インフルエンサーが動画ストリーミングで紹介した商品を、アプリ上でユーザーが購入できる利便性やCXをフックに、ライブコーマス市場は今後、日本でも大きく成長すると見込んでいます。

石原:CXを重視したサービス設計と言えば、損害保険会社のカスタマーサポートにおけるLINEのAPIを使ったチャットシステム導入を支援させていただきました。従来、事故対応に関する問い合わせは電話で受け付けるのが主流でしたが、ユーザーは普段から使い慣れたLINEのチャットで各種手続きや質問ができるほか、事故車両の写真を撮って送信すればAIが画像を解析して見積査定も行える仕組みです。このようにシームレスかつ非対面を実現する顧客対応へのニーズは、コロナ禍が収束した後も増えると予測しています。
——コロナ禍を受け、デジタル化に本腰を入れて取り組もうとする企業は多くなりそうですね。今後、日本企業のDXを推進させるためのポイントを教えてください。
稲益:やはり、日本企業にありがちな事業部ごとの縦割り構造の打破が必要です。LINEの運用においても「カスタマーサポートと販売は部門が違うため、LINE公式アカウントが分かれている」、EC事業の推進においても「新規獲得とCRMの管轄が異なるため、足並みが揃わない」などの話をよく耳にします。しかし、それらは全て企業都合です。DXを推進するうえで大切なのは、各部門に横串を通して、徹底的にユーザー目線に立つことです。部門間の壁を取り払い、CXを最大化できるサービス設計をすることが大切です。
石原:同意です。私もユーザー体験を中心にサービスに切り替えることが、DX成功のカギだと思います。近年、出版業界は苦境に立たされていますが、デジタルを活用してヒット作を生み出す手法はまだまだあると感じます。例えば、カルーセル広告などを効果的に利用して、漫画や小説の一番盛り上がる部分だけを先に作ってネットで配信します。そして、ユーザーの反応が良かったものをセレクトして作品全体を完成させれば、ヒットする可能も高まるはずです。
しかし、こうしたDX推進やそれによりもたらさせる効果を、旧態依然とした慣習が多く残る企業様にご理解いただくのはなかなか大変です。ですから、緻密なロジックの組み立てはもちろん、私は企業や部門のトップと話をするようにしています。DXが進むかどうかは、やはり旗振り役の決断が大きいです。
LINEのAPIを活用した競争が、サービスを進化させる
——あらためて、お二人が考える「LINEの強み」について教えてください。
稲益:リーチ率は他のSNSと比べて大きく優っていると思います。国内で圧倒的なユーザー数を誇っていて、しかもアプリをアンインストールされることもほぼありません。生活インフラと言っても過言ではありませんから、私は常々、顧客企業に「LINEをもっと活用すべき」とお話ししています。
石原:LINEが提供するAPIを活用して、自由にサービスをつくり出せるのも強みです。開発におけるAPIの使い勝手は、他のSNSと比べて圧倒的に良い。オープンソースであるがゆえ、LINEのAPIを活用してどのような価値を生み出せるかが私たちサードパーティーの力の見せ所です。そして、サードパーティー同士が競い合って開発・改善を繰り返すことで、サービスは一層進化します。
——今後、LINEを活用してどんなDXを実現していくのか、展望を教えてください。
稲益:小売を中心にDXを推進して、さまざまなサービスを一本化することが目標です。多くの企業が自社アプリを開発・提供していますが、これではユーザーにとって財布の中に紙の会員証がいっぱいに詰まっている状態が、ただスマホに移行しただけに過ぎません。飲食店の予約、ショッピングの決済、カスタマーサポート、行政の手続きなどのあらゆるサービスがLINE上で完結できるようになれば、ユーザビリティーは大きく向上します。
また、コミュニケーションアプリというLINE本来の機能を生かし、例えば店舗で商品を購入したユーザーに「商品はいかがでしたか?」「こちらがあなたへのおすすめ商品です」などとLINE公式アカウントでメッセージを送れば、再来店やリピート購入を促せます。オンラインとオフラインをつなぎ、シームレスな購買体験の提供やそのデータを蓄積することで、LINEを活用したCRM(顧客管理)を実現し、LTV(ライフタイムバリュー)を向上させられると考えています。
石原:私は基幹産業の生産効率を上げることをミッションとしているので、まずは金融、医療、公共サービスなど生活に欠かせない業界のDXを推進するとともに、それらの企業の競争力強化に貢献したいです。
また、先述したAPIをはじめ、LINEはすばらしい要素技術をたくさん保有しているのに、マーケットでの認知度が高くないのが残念に感じています。LINE Frontlinerとしてそうした技術をサービスに落とし込み、顧客企業のDXを推進していくことで、LINEの法人向けサービスやAPIが持つ価値を広く伝播する役目も担えればと思います。
(取材・文:相澤良晃、写真:高橋枝里)
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